隊員のための「不動産値引きの基本教練」

本内容は、弊社が自衛官・防衛省職員様向けに発刊しています小冊子「情報缶飯Vol.6「不動産値引きの基本教練」の抜粋記事になります。

皆様の不動産取得のための一助となれば幸いです。

 

不動産値引きの基本教練

今回は、不動産取引における「指値」について自衛官目線で取りあげてみましょう。

不動産の売買取引において(特に中古物件)、買主が価格の値下げ交渉をする「指値交渉」は、一般的によく行われていることです。

住宅を購入する際に「できるだけ安く買いたい」と思うことは当然のことですし、だれでもそう思っていることでしょう。

しかし、売主は「できるだけ高く売りたい」と思っています。

ただ安く買いたたくためのものであれば、売主側も交渉に応じてくれないばかりか、不動産の代わりに怒りを買うはめになりかねません。

指値交渉を行う上で大切なことは、常識的な範囲で具体的な理由を添えることや、売主を尊重した誠意ある態度です。

では指値のポイントをみていきましょう。

 

1【ディスカウント星からやってきた「ネギリ星人」】

 不動産を購入する場合は誰でも安く買いたいと思うのは当然のことです。

 しかし口を開けば「安く!とにかく安く!」と呪文のように口にする人がいます。こういった人は、内覧中であっても気になるのは「値段の事」だけ!

 私も「値切ってくれ! 一緒に戦ってくれ!」と言われたことがありましたが、お門違いもいい所です。

 一体「何に」対してして「誰と」戦えというのでしょうか?  

 基本的に不動産の値切り交渉は1度キリです。 

 それは「この値段なら買う。」という意思表示の際、買付申込書に金額を記載して提出する時です。

 出値(だしね)(不動産価格)に対する指値(さしね)(購入希望価格)といいます。この際、売主側が、指値条件をすべて飲んだ場合、通常は売買契約に向けて移行して行きます。

 その覚悟もなく単に値切りを口にして、安い金額を売主側に言わせる事に注視しすぎると、まず買えるものも買えなくなります。

 

売主は別に「あなたに買って貰わなくても良い!」からです。

私も過去に新築建売物件をご希望のお客様をご内覧・案内時に頼まれてその場で指値交渉をした結果、販売業者側の営業様もがんばって値段を下げてくれました。

ところが・・・

「じゃ~その金額で再検討します。」といって買付申込書も入れず、帰ってしまったお客さんが居られました。

冷やかしですか⁉

 

その後もう二度とあんな客を連れてくるな(# ゚Д゚)とメーカーさんはカンカンに怒ってお叱りを受けたことがあります。

メーカーからすると、コロナ禍の最中、密を避けるために他のお客様とのバッティングを避け対応するスタッフを厳選し望んでいる内覧案内です。

そのうえ、担当の営業様は必死に提示額でOKを取ろうと奔走してくれていました。

とんでもない機会損失であり担当営業マンからすると上司との値引交渉もあっさり無碍にされたことになりますから当然と云えば当然ですね。

後日菓子折り持参でお詫びに参上することとなりました(-_-;)。

 

2【指値(さしね)とは?】

「指値」とは、不動産売買においてだけでなく株式投資の場でも頻繁に使われている言葉です。そもそもの意味は「買主が購入価格を指定すること」であり、その価格の高低は関係ありません。しかし、不動産売買においては「指値」といえば値下げ交渉を指すことが一般的です。なぜかというと、不動産売買では買い手はなるべく安く買いたいと考えるのが基本であり、売り手が示す価格以上の購入価格を指定することは非常に稀なことだからです。そのため「指値=売り手が示す価格以外を指定する=値下げ」という意味で使われているのです。買主が指定する「指値」に対して、売主が指定する値段を「出値」(だしね)といいます。中古物件の売買などでは、買主が媒介業者(不動産業者)に価格交渉を依頼する場合があります。売主と買主の交渉・調整を特定の媒介業者が行う場合もあれば、買主から依頼された媒介業者と、売主から依頼された媒介業者と、業者間で交渉・調整がなされるケースもあります。調整の結果、実際に取引した価格を「成約価格」といいます

 

3【買手にもマナーはあるぞ!】

しかし売主側も、どんな交渉にも応じるべきかといえばもちろんそうではありません。

たとえば、あまりに常識を外れた金額を提示してきたり、

交渉の途中で金額をコロコロ変更したり、

あるいは突然キャンセルを申し入れたり、

思わせぶりな態度で訊いてみただけ等々

相手に対して礼を欠いたりするような人には応じられないと思うのはごく当たり前なことでしょう。

指値を入れること自体は非常識なことではありませんが、その際には買い手にも守るべきマナーは当然あります。

 

4【資産or負債?】

投資物件等に限らず、不動産を購入するときには「とにかく、叩いて、叩いて、買い叩く!」という人がいます。

これは安く買いたい表れなのでしょうが、行き過ぎると誰からも相手にされなくなってしまいます。

不動産は当然の事ですが、あなたの財産です。

その財産が実は「たたき売り」されたものだったらどうでしょう?

もし、何かの都合でその物件を手離さなければいけなくなった時には「たたき買いされます。」

そうしてしまうのは他ならぬ自分自身であることに気付くべきです。

不動産取引を「バナナの叩き売り」と同じメンタリティでやっている人は、必ずといっていいほど「負債」を掴みます。

 

5【不動産の指値の相場は?】

指値額に「相場」は存在しませんが、一般的に売り出し価格の-10%程度以内が妥当点とみなされているようです。

指値の目安 不動産の売り出し価格と成約価格の差額を比率で表したものを「価格乖離(かいり)率」といいます。 例えば売り出し価格が2,000万円、成約価格が1,800万円の場合、価格乖離率は-10%です。

指値交渉が成立する減額幅の目安は、一般的に10%以内と言われています。しかし、あくまでも一般例であり-10%に囚われないほうが無難です。

最初に記述したとおり「売主はできるだけ高く売りたい」ことに変わりはないのです。現実的な金額を見極めましょう。

 

乖離率とは売出し価格と成約価格の差額を比率で表したものです。

計算式にすると「(取引価格-売出し価格)÷売出し価格×100%」になります。

基本的に0%に近ければ近いほど売主側と買主側の意識のずれは少なくなり、0%から離れれば離れるほど売主側と買主側の意識のずれが大きいことがわかります。

参照「阪神阪急住まいのコンセェル」

6【そもそも、誰と交渉を行うのか?】

物件を買いたいとき、「指値」は誰に伝えるのか? それを知るためにはまず、不動産の売買が以下のような構図になっていることを理解しておきましょう。

指値交渉をする前に、取引の構図を確認し、交渉する相手が誰なのかを把握することが大切です。
一般的な不動産取引の構図は、概ね以下の3種類になります

 

① 売主から直接購入する

② 元付の不動産仲介会社が、売主と買主の間に入る

③ 元付と客付けの不動産仲介会社2社が、売主と買主の間に入る

「元付」とは、売主から直接売却の依頼を受け、媒介契約を交わしている不動産仲介会社のことです。

一方、「客付け」とは公開されている物件に対して購入者を探す、買主側に立つ不動産仲介会社のことをいいます。

不動産を購入する場合、「不動産会社」が仲介に入るパターンが圧倒的に多はずです。

この場合、交渉する相手は「売主」ですが、あくまで「不動産会社」を介して指値額を売主に伝えることになります。

不動産会社は、購入希望者から提示された指値額や条件を売主に伝え、双方の希望条件がまとまるように調整する役目を担っています。

物件によっては不動産会社が2社以上介入しているパターンもあります。

その場合、売主と媒介契約を結んでいる元付の不動産会社と、元付の不動産会社から販売許可を得ている客付の不動産会社が存在することになります。

指値をする前に、今回の取引はどの構図であるのか確認し、「誰を、どう」攻略するべきかを考え戦術を練って交渉に臨む必要があるでしょう。

因みに、実際に値下げ交渉をするのはお互いの仲介人である不動産会社の担当者です。なのであまりに非常識な指値はここで却下される可能性もあります。

売り手と買い手が、直接顔と顔を合わせて話し合いをしていくわけではないため、納得できる不動産売買をするためには不動産会社選びも慎重に行う必要があります。

自分の意思をきちんと伝えることができ、かつそれに対し誠意ある対応をしてくれる不動産会社を見極めましょう。

 

7【立場を入れ替えて考えてみる】

これまで買主目線で語って来ましたが、ここでは売主側の立場で考えてみましょう。

① 売買価格

売主は、なるべく高く売りたい。」事に変わりはありませんから、中古物件の場合は特に自分の不動産価値は実際の適正価格より高く考えがちです。 

そこで、仲介業者へ価格の査定を依頼します。

しかし、一般的に現実には本人が思ったよりかなり低く評価額がでます。

売却側の業者は、客観的根拠に基づき、それを提示しつつ「売主と調整(説得)して」なんとか適正価格の範囲で売却価格を決めるのです。

新築建売の場合は建築メーカーが売主となる場合が一般的です。

販売価格から値引き率の幅を予め会社から与えられている営業マンは殆どいませんから、値引き提示された金額を一旦本社に持ち帰り「稟議」に掛け、提示された値引き額が可能かどうかの決済を仰ぎます。

② 指値

売却価格からあまりに乖離した金額の指値を入れられた場合は、当然のことながら売主にとっては面白い話ではありません。

また、価格査定を行った不動産会社も自身の下した査定額を完全に否定された感があり、場合によっては憤慨し交渉決裂する場合さえあります。

提示された指値額に何の根拠もなく、また買主の一方的な自己理由とみなされた場合には、交渉のテーブルにすら乗らなくなります。

2千万円の物件に1千万円の指値を入れることなど論外です。

到底、買う気がある人だとはだれも思いません。(冷やかし客と思われるのがオチです。)

③ 交渉基準

そもそも売主が、買主の購入予算に寄り添う必要性はどこにもありません。(満額購入してくれるお客様を待てばよいだけ。)

買主の都合、特に購入予算に見合わない物件を「指値ありき」で「鬼の指値」を申し入れて来られても、やはり迷惑なだけなのです。

むしろ仲介業者に「足元を見るやつだ!」と思われでもしたら、今後の物件探しにまで悪影響を及ぼしますので、マナーと売主側への配慮も大切です。

8【指値交渉の指針】

① 新築物件の場合

基本的に指値は06%程度が妥当点とみるべきでしょう。

全く値引きしないメーカーさんも中にはあります。

ローコスト住宅は基本的に薄利多売な商品ですから、少額の値引きが直に売り上げに反映されるので敬遠されがちです。

できない「値引き」に執着するより、満額購入でいかにオプションを付けてもらえるかを交渉したほうが、より確実で話がスムーズに進みます。

結果的に「値引額」よりも高額なオプションを付けてもらえることもあって、最終的に得する可能性が高くなります。

先の7項「立場を入れ替えて考える」でも少し話しましたが、営業担当者も本社に持ち帰り同じ「稟議」にかけるのであれば、値引き交渉よりも購入前提の付帯オプションサービスの方が、俄然頑張ってくれることでしょう。

② 中古物件の場合

本来、中古物件の指値は難しいものです。

どれ一つとして同じ不動産が存在しないだけに、一律で00%の指値額とは言えないことが正直なところです。

地域の特性や築年数、物件の所在位置、そして何より古い対象物件の場合は、そのままで居住可能か?等々、総合的に判断して-10%を基準に考慮した方が無難です。

それでも、当然販売価格が設定されている限りは「非現実的な指値」を入れたとしても、売主側が好意的に受け取ってくれることはまずありません

相手を怒らせてしまっては、交渉などできる筈もないので常識的な範囲で指値額を提示しましょう。

③ 根拠を明示する

自分が示す指値額の根拠を明確に相手に示す必要があります。

中古物件を購入し単に「リフォームをするから××万円さげてくれ!」は基本通用しません。

「○○と○○をリフォームします。それには000万円かかります。」「よって予算オーバーとなるので××万円値下げできませんか?」といった趣旨が必要です。

実際にリフォーム会社からの見積もり等あれば一層、交渉し易くなります。

 

9【まとめ】

 自衛官諸兄にとって「不動産購入時の指値」は意外と難しいものでしょう。

 何より経験がない事と、基準が分からないからです。

 そこで今回は敢えて指値交渉を題材に概ねの基準点を示すことで、より不動産購入時の交渉をスムーズに進めて頂きたいとの願いから本コラムに取り上げてみました。

 まとめると以下のようなところです。(自己居住用住宅を対象)

・自分の購入予算の範囲内で物件を探す。

・「指値(値引き)ありき」で取得計画を立てない。

・指値が通ったら「ラッキー」位のつもりで、満額でも欲しい物件を選ぶ

・初めから通るはずもない非常識な高額指値を提示しない。

・売手の弱みに付け込むような理由で指値をしない。

・築浅中古物件に「リフォーム名目」での指値は逆効果な場合もある。

・職場の先輩の「武勇伝?」を鵜呑みにした「たたき買い」を真似しない!

・思い込みは厳禁、現地現物の調査と資金計画の両立を図ること。

・売手に値引きさせておいて「訊いてみただけ。」「検討します。」は最低のマナー

 

無知であろうと、なかろうと、知っていようと、知らずとも

相手を怒らせてしまっては交渉事はなりたちません。

指値交渉とは、「売ってよかった! 買って良かった!」の結末に導くための手段であることを理解してください。

「鬼の指値」を入れたばかりに、関わる人や会社すべてを「敵」に回さないよう正しい知識を身に付けましょう。

 

 

「情報缶飯Vol,6」

株式会社 陸自不動産

代表取締役 小松野美貴哉

(元陸曹長 令和元年定年退職)