「ちょっと演習で…支払期限が遅れます。」・・・・【注意‼!】その発言、爆破3秒前ですよ。

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自衛官のお客様でよくありがちなのが、買主として契約を締結しておきながら支払日を遅延してしまうことです。
その理由は概ね「演習が〇〇日~〇〇日まであるので…」「その日は特別勤務で出られません。」「ちょっとその期間は〇〇に行っています。」
といった内容です。
同じ自衛官であるならば、「しょうがないよね!」で済むお話ですが、こと不動産取引においては非常識な上にかなり危険な話になります。

なぜかというと、不動産売買においては重要事項説明を受け、売買契約書の説明をしっかりと受けたうえで署名・押印を行い了承していたはずです。
もし仮にこの時点で「演習等」が判っていたのであれば、その時に確実に履行できる日程を自らが示す必要があります。(民間の人には判りません。)

不動産に限らず「売買契約」はすべて法律行為です!

法令に基づいて契約内容を書面にしたものが「売買契約書」ということになります。
皆さんにとって何より重要な「演習」であったとしても、民間人である相手方(売主様)からするとそれは「結局、あなたの都合でしょ!?」となってしまうのです。


それがたとえ数年に一度の「訓練検閲」であっとしても…契約不履行の理由にはならないということです。

演習や勤務、入校などといった各種行事は、いかに臨機応変を旨とする自衛隊と言えども事前に判っている筈です。
そうであるならば、帰隊後直ちに決済(お金を支払う、または引き渡すこと)が可能となるよう、できうる限り最善の手を打っておかなければなりません。
相手方(売主)の好意で、帰隊までの期間「延長承認」して頂けることもあるでしょうが、それはあくまで相手方の「親切心」に頼っているだけです。
それもせいぜい数日から数週間程度が常識です。

 

相手の好意に甘えて支払期日から「数か月」も支払いが滞るといった事は、あまりに相手方(売主)をないがしろにした行為であって、いつ怒りが爆発するかも知れません。

                                   


売主さんとの間に入っている仲介業者(不動産業者)もそうとう困惑しているはずです。

そうなってしまっては、結局「債務不履行」になり損害賠償金を支払った上に売買契約は破棄といった事態になります。
要するに「損害賠償金を支払ったうえで物件は手に入らない。」といった事態は最悪といって良いでしょう。

では演習等(こちらの都合)で支払期日が遅れてしまった場合どうなるのでしょう?


以下公益社団法人不動産流通推進センター参照 

1.原則
 不動産の売買契約において、買主が代金の支払いを遅延した場合は、売主は買主に対し、原則として買主が支払うべき代金に対し民法第404条に定められている法定利率(年利5%)を乗じた金額を遅延損害金(遅延利息)として請求することができる(民法第419条)。 そして、その請求は、当事者間に特約がなくても請求することができる。

2.買主の代金の支払遅延に対する遅延損害金(遅延利息)は、違約金を定める場合にも定めることができるか?また、できるとした場合、その上限利率は?
 「買主の代金の支払遅延に対する遅延損害金は、その額が妥当である限り、違約金を定める場合にも定めることができる。
 その場合の遅延損害金の上限利率は、消費者契約の場合には年利14.6%となるが(消費者契約法第9条第2号)、消費者同士あるいは事業者同士の契約の場合には、暴利にならない範囲でケースバイケースで定めることになる。」


 上記の解答となっていますが、一般的に不動産売買契約書には契約不履行の場合の解除は明確に提示し、利率も記載されています。そもそも「支払遅延」の条項は記載する必要が無いのです。

遅延=契約解除が本来の取り決めです。 

売主(買主)様の承諾があって支払期日を延伸した場合は、売買契約書に特段「特約」がなくても、遅延損害金を請求された場合には支払いの義務が発生するということです。

 

3.売主は、買主から遅延損害金の支払いを受けたうえで、契約を解除し、違約金の支払いを受けることができるか?
 「違約金の請求について、契約を解除したうえで行使する旨の定めがあり、かつ、その際に遅延損害金の既払分を控除する等の定めがなければ、売主は、買主から遅延損害金の支払いを受けたうえで、契約を解除し、違約金の支払を受けることができる。」


 上記の理由から、

遅延損害金を払って契約は解除され、尚且つ「違約金」まで支払い、結局欲しかった物件は手に入らない。

という事態に陥ります。

参照条文
○ 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
   債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
○ 民法第416条(損害賠償の範囲)
  ①  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
  ②  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
○ 民法第417条(損害賠償の方法)
   損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
○ 民法第419条(金銭債務の特則)
  ①  金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
  ②  前項の損害賠償については、債権者は損害の証明をすることを要しない。
  ③  前1項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
○ 民法第420条(賠償額の予定)
  ①  当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
  ②  賠償額の予定は、履行の請求は又は解除権の行使を妨げない。
  ③  違約金は、賠償額の予定と推定する。
○ 消費者契約法第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項の無効)
   次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
   一 (略)
   二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が2以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
監修者のコメント
 売主、買主いずれの債務についても、暴利行為(民法第90条)に当たらない限り、遅延損害金と違約金を別に定めることは、契約自由の原則の範ちゅうの問題であって、当事者が認識している限り有効である。
 ご質問の売主側の引渡し義務の遅延損害金は、1日当たり、いくらと定めるのが簡明で望ましい。
 違約金や遅延損害金の特約をしなかったときは、実損害を証明して請求することとなる。

 

これらの理由から、演習命!の「自衛官の常識」は全く通用しないということが判ります。


どこの一行にも「演習その他の公務を除く。」との一文はありませんね。
残念ながら、こと売買においては「自衛官だから…」との認識は全く通用しません。

遅延損害金の支払いは、多くのケースで契約によって明確に定められています。
また、契約内容に遅延損害金の支払いについて定められていなかった場合でも、民法で定められています。
なので、遅延損害金は、支払うべきお金であり支払義務があることを覚えておきましょう。

 

以下に概ねの計算式を載せておきます。

借入(負債)額×年率×滞納日数÷365日=遅延損害金

支払いが遅れている借入(負債)額に、契約書などで定められた年率をかけます。
さらに1日あたりの遅延損害金を算出して滞納日数をかければ、支払うべき遅延損害金が分かります。


ここからは、遅延損害金(延滞利息・遅延利息)の計算を見てみましょう。
住宅ローンの場合を参考に算出してみましょう。

☆住宅ローンにて期限の利益を喪失しているケース
住宅ローンは、一般的な借入よりも高額であるケースがほとんどです。
この場合、遅延損害金も大きな額になりやすいので注意しましょう。
ここでは、「残元金が3,000万円で期限の利益を喪失した場合」の遅延損害金の計算をシミュレーションします。
延滞損害金の年率は14.6%と想定し、20日間経過した場合です。

3,000万円×14.6%×20日÷365日

これを計算すると240,000円となります。
1ヶ月弱でこの金額になってしまうため、長期となれば金額が跳ね上がることも珍しくありません。

上記の計算式はあくまでも一般的な住宅ローンの延滞を前提に算出していますが、例え金融機関を通さず現金決済であったとしても同様のことが言えます。


上記の事から、契約を締結した後に…

おいそれと「ちょっと演習で…支払期限が遅れます。」との発言は恐ろしくてできませんね。

相手方の怒りが爆発すると同時に、あなたの資金も大爆発してしまうことになるでしょう。

 

陸・海・空・自衛官の場合、「演習」は宿命です。
演習のみならず、「教育訓練」で数か月間不在ということも日常茶飯事であることは十分理解できます。
自衛官同士のやり取りであったならそれもギリギリ「有り」かもしれませんが、こと相手が「民」であった場合、それが個人であろうと法人(業者)であろうと、それが「言い訳」にはならないということです。

仮に訓練等で長期間自分が不在であっても、契約行為自体は滞ることが無いよう「代理人」を建てるなり、予め事前に前倒するなりの予防策を徹底しておきましょう。

決して「売買契約」をただの社交辞令として甘く見ないように…

 

今回は隊員様方への、「契約の重み」を認識して頂きたく注意喚起のつもりで記事を書いてみました。


株式会社陸自不動産
代表取締役 小松野美貴哉